Blanc ou Noir

 

 

 



と、突然ユキがその場に倒れた。

「はぁ…はぁ…はぁ……」
ユキはかろうじて息をしているようだ。
「おい、お前、どうしたんだよ!ユキ!」

「…ユキ君、薬…薬いっぱい飲んでた…」
それまで床に座り込んで震えていた麗奈がようやく口を開いた。

「薬?」
まさか!
ふとベッドに目をやるとそこにはおびただしい量の薬があった。
精神安定剤だ。
最近は薬に頼ることもなくなってきていたが、ユキはひどい時は毎日薬を飲んでいた。
「アイツ、何錠くらい飲んだ!」
「わかんない…でもそこにあった分はほとんど…」
処方された袋には一週間分とある。

一週間?
最近の薬はずいぶん副作用も少なくなってきていて、ちょっと多く飲んだところで死にはしない。
でも…でもだ、見境なく飲むのはやっぱり危険だ!
しかもユキは大量に出血している。ヤバイ!
ユキの吐息はかなり小さくなってきていた。
「コウちゃん!! 救急車!今すぐ救急車を呼んでくれ!!」
コウちゃんは慌てて電話をしに行った。

「お前、何で止めなかった!」
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、あたし何がなんだかわかんなくなっちゃって…」
「お前ユキに何言ったんだよ!」
「あたし、ユキ君に秋也君に傷つけられたから慰めてって言っただけよ。
 
そしたらユキ君、すごい勢いで薬飲み出して。ちょうどそのときに秋也君が来たの…」

あぁ…。そのときやっと俺はユキの言葉の意味を理解した。
ユキ、お前、とんだ誤解だぜ…。

ユキを腕にかかえながら俺はユキに話しかけた。
「ユキ、聞いてくれ。俺は、この子に何もしちゃいない。お前の誤解だ…」
「そ、う、な、の?」
「あぁ。でも疑われるスキを与えた俺が悪いんだ、ゴメンな」
「お、れ、も、ゴ、メ、ン」
「俺が、俺が愛してるのは、ユキ、お前だけだ」
そう言ってオレはユキを抱きしめた。

「あ、り、が、と…」
消え入るような小さな小さな声でユキは言葉を発した。
そして精いっぱいの力で微かに笑い、フッ、と息絶えた。

「ユキ!ユキ!おい!しっかりしろ!ユキ!目を開けろ!ユキ!」
何をしてもユキは動かない。
「ユキ!ユキーーー!!!」
俺は泣き崩れた。

しばらくしてコウちゃんと潤が戻ってきた。
「ユキは?」
俺は首を横に振る。
「ゴメン、俺がもっと早く気付いてたら…」
「いや、コウちゃんは悪くないよ」
「そうだよ、兄ちゃんは何も悪くねぇ。麗奈サン!アンタのせいだよ!」
たまりかねて潤が叫ぶ。
「ゴメンナサイ!あたし、あたし、知らなかったの!
 まさか、ユキ君と秋也君が…!ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…」
麗奈はワッと泣き出した。
「おい、潤、言いすぎだ。この子だって悪気があったわけじゃない。
 これは、俺たちの誤解が生み出した事故なんだ。守れなかった俺が悪いんだよ…」

そう、最後まで俺はユキを守れなかった。ユキは最後まで哀しい奴だった。
ユキ、ごめんな。俺を許してくれ…。

 

 

 

 

 

 

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